「スポーツと歯の食いしばり」~その1~ | ナス動物病院

「スポーツと歯の食いしばり」~その1~        

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今回は久しぶりに、私のお気に入りのコラムより紹介します。

引越し後、病院も忙しくしている中、楽しみはなんといっても、王ジャパンでした。
決勝戦は某電気屋さんの街頭テレビで、みんなと胴上げの様子を見ていました。
その王監督についてのお話です。

  「スポーツと歯の食いしばり」~その1~        
   岡崎 好秀(岡山大学歯学部附属病院小児歯科 講師)

 スポーツ時における歯の食いしばりについては、さまざまなことが言われてき
 た。歯の食いしばりというと現ソフトバンクの王監督を思い浮かべる。王選手
 の主治医の話。「王さんの歯の悪さは、職業病といっていいと思う。現役をや
 める2年前、シーズン中歯が痛いと訴えてきた。左上の第1大臼歯が、竹を割
 ったように縦にスパッと割れている。めずらしい症例なので驚いたけれど、と
 にかく驚きました。あのころからですね。歯の傷みが目立ってきたのは・・・」
 これまでに失った歯は全部で5本。先ほどの第1大臼歯と右下第2大臼歯と第3
 大臼歯3本。残っている歯もすりきれて、歯の凸凹があまりない。(1988年10
 月10日 読売新聞“歯をくいしばる”より)大臼歯にかかる圧力は、100~150
 kgといわれているから、王選手は激しい咬耗のために歯が磨り減ったのだろ
 う。確かに、重量挙げ・大相撲など瞬間的な食いしばり時にかかる圧力は想像
 を絶するものがある。

 それでは、どうしてスポーツ時には歯を食いしばるのであろうか?
 この点について考えてみたい。

 さて咬反射という言葉がある。生後2-3ヶ月の乳児の口に指を入れると、咬
 むような動きが起こる。これは吸啜反射など原始反射の一つである。この反射
 は延髄レベルでのものであるが、上位中枢の成熟とともに抑制され消失する。
 そのため脳の発達とともに4ヶ月以降で消失する。もしこの反射が消えないと、
 顎は自分の意思でコントロールできない。思い通りに顎を動かせ食べることが
 できないのだ。

 しかし脳性まひなどの障害があると、上位中枢が発達しない。そのため消失が
 遅れる。歯磨き時に、歯ブラシを咬んでしまう。しかし、外すことはできない。
 さらに、重度では、自分の口唇まで咬み込んでしまう。どんなに痛いことだろ
 う。咬反射が起こると同時に、全身の筋が緊張し硬くなる。

 どうしてこんな反射が存在するのだろう?

 さて、ライオンが獲物を襲うときを、考えてみよう。獲物を捕らえるためには、
 心拍数・呼吸数を増大させ臨戦態勢をとる。これは,交感神経が優位な状態で
 ある。そして獲物に咬みつく、体中の筋肉も極度に緊張していることだろう。
 ここで口が開くと獲物に逃げられてしまう。だから咬反射が存在すると考える。

 これを当てはめれば、スポーツ時の歯の食いしばりが見えてくる。闘争本能む
 きだしの状態では、上位中枢の抑制が解けることだろう。だから咬反射に近い
 状態がかもし出される。
 これが、歯の食いしばりの一つの要因ではなかろうか?

 しかし・・・・である。すべての運動において歯を食いしばっているわけでは
 ない。元巨人軍の江川投手は、歯が良い投手としても有名であったが、「ボク
 は歯を食いしばらない。口唇をかみしめるようにして投げていた」と話してい
 る。どうして歯を食いしばらないのだろうか?この続きは、次回に述べる。

  そういえば、私の好きなマイケル・ジョーダンも
  シュートを打つときは、舌を出していました。(関係ないかもしれませんが?)

次回をお楽しみに。